2015. 02. 03  
2010.7.24身の丈に合ったラグビー
次に紹介するのは、2008年9月、関西学院大が49年ぶりに同志社大を破った時に、藤島大にインタビューを受け、彼がまとめてラグビーマガジンに載せたもの。

今迄に載せたことと、だいぶん重複するので、退屈でしょうが、私が使った「身の丈に合ったラグビー」という言葉が、この後はやり出した時のものなので、敢えて載せました。

<本文>

本誌、およびラグビーマガジンの熱心な読者であれば、おりにふれ、その名を目にしているはずだ。
ジャパンを語れば、どうしたって「横井章」をよけては前へ進めない。
いまカッコつきで紹介したのは、ほとんどその存在が「古きよきジャパン」と「接近戦」の象徴にして、記号だからである。

1968年、オールブラックス・ジュニアを破った名CTB、主将として迎えた71年のイングランド来日では、大健闘の初戦途中に無念の負傷退場をして、あの伝説の「3―6」・互角の次戦へ出場はならず、名将・大西鐵之祐をして「横井ありせば」と、悔しがらせた。

大阪の大手前高校ではバスケットボール部所属、リーダーとして、低い屋根の下で練習して低いパスからの速攻を磨くなど、工夫をこらし各大会に実績を挙げた。
早稲田大学へ進むとラグビー部へ。初心者なのに新人から早慶戦に出場している。伝統の接近プレーを「しろうとだから極端なまで理論どおりに実践」。バスケット仕込みの近接してのパス感覚と、独特の身のこなしという特質もあって、まさに申し子となる。

あえて相手に吸い込まれるように近づき、低く強靭な姿勢でわずかな空間をつくってのパス。一直線のようであって、かすかに、 曲線を帯びるコースで、攻撃の角度を封じ込める日本式シャローディフェンス。攻守両面での見事なまでの「接近」は、幾つかの映像と記憶によって、いまも語り継がれている。

「接近 連続 展開」。あるいは、 「展開 接近 連続」。横井章こそは、大西監督の掲げたジャパンの核心的戦法の最高の理解者にして、最良の具現者でもあった。

三菱自動車へ入社、ラグビー部を退くと、もっぱら社業に励む。定年退職後、沈黙を破るかのように全国各地の高校や大学を巡回指導、攻守ともに前へ出る根本思想を教え諭し、また試合運びの要諦、大勝負での心構えを説いて、さまざまな成果をもたらしている。

イングランドと対戦時のサイズは、165㌢、68㌔。当時としても小柄な部類である。それでも山の稜線のごとき首から肩のライン、体幹のたくましさ、低い重心で、大男を比喩でなしに、仰向けにひっくり返した。

取材当日はアドバイザーを務める関西学院大学が、実に49年ぶりに同志社大学をやっつけた。引き揚げてくる選手のひとりが、 「横井イズムのおかげです」と頭を下げた。なるほど単なる技術論や経験則には収まらぬ「イズム」。その中核にある「いかに、 身の丈にあったラグビーを考え抜くか」を、 語ってもらった。

--大きなテーマは「小は大を制しうるか」なのかとも思います。現場に戻られて約8年、率直な意見を聞かせてください。

「まず傲慢な話なんですけど、あんまり世界のラグビーを参考にしないんです。オールブラックスにしても、 最近はだいぶようなってきたけど、仕掛けてから抜きにいくプレーなんて、ずっとループからのショート(で縦に寄ってくる)くらいでしたから、、、まあ、自分らのやってたジャパンのバックスのプレーは、当時の世界最高だと信じているわけでね」

--接近プレーですね。

「去年のW杯で、アイルランドのオドリスコル(CTB)がアルゼンチン戦でしたか、空中のパスに(ボールの軌道をカットするように)走り込んで抜いた。ちょっとずつ出来るようになってきたな、と。むしろ、 ジャパンのほうが、 出来ない。接点でボールが動きませんから」

--接点でボールが動かない?

「結局、(クリスチャン)ロアマヌにしても遠藤(幸佑)にしても姿勢の高いままボールを片手で持って当たるから、 接点でボールを動かせずに、ラックになってしまい、ディフェンスのセットは動かない。国内では強くても、国際試合で片手が通じるほど強くはない」

--トップリーグからも、接近プレーは消えつつあると。

「ほとんどの選手が、ラグビースクール出身で、小さいころは芝生のグランドは、ほとんどなかった。転んだらすりむいて、痛い、こわい。子供だから、本能的に倒れないように、相手に対して手を出してしまう。そのクセが抜けない。箸の持ち方のようなもん。いま、ほとんどの選手は低くなろうとしても、頭が下がるだけで、 ヒザを折れない。もし、 芝生がないのなら、子供は、サッカーとバスケットとソフトボールをやっていたほうが、いいと思うくらいです」

--そういう話もうんと伺いたいのですが、今回は、体の小さい人間、チームでも、 工夫すれば勝負できるのでは、というところを教えてください。

「自分の身の丈に合ったラグビー」をする。この当たり前のことができない。
たとえばトップリーグのある試合では、私が夜中にビデオでカウントしたところでは120回もゲームが切れていた。だいたい反則が40回、ノッコンなど単純ミスが40回、タッチキックなどで40回。問題は、単純ミスです。
解説者は優しいから、汗でボールが滑ると言う。でも、この数を異常と思わなくては、、、
長いパスを外国人と同じように放る能力がないのに、ワイドなラインで攻める。パスの回数の多いアタックをする。それこそ汗でボールが滑るかもしれないのに、片手でハンドオフしてずらそうとすると、観客までもが感心する。

このゲームに限らず、大半のチームの指導者は、なぜミスが出るのか、自分のチームの能力でミスのないラグビーをするには、どうするのかを突き詰めない。ボールを両手で持てば、 ミスは減る。コーチに聞けば、わかってます、と言います。じゃあ、わかってることを、何でやらへんのや、ということ。そこが問題なんです」

--身の丈に合ったラグビー…。

「自分の手元には、こういう戦力がある。相手はこうだ。それこそが、戦いの基本。ゲームとは、勝つために行うのであって、何か他の目的のためにあるのではない。なのに、世界はこうしてるからと、よく考えもせずに、なりゆきの自滅ゲームをしている。なりゆきだから、 その日に、ミスをたくさんしたほうが負ける」

--つまり長いパスの際立つ名手がいないのなら、ワイドラインは引っ込めるべきだと。

「そう。早稲田がワイドラインで勝った。その時は、清宮監督が、毎日1時間かけてロングパスを仕込んだ。もしワイドで攻めたいのなら、それだけの準備が求められる。それもしないで、なんとなく外国もワイドだから、、、と採用してミスを繰り返すようなチームばかりです。持ってる素材にはできないラグビーをさせている。そうではなくて、できることをしなさいと、、、」

--平均的日本人には、長いパスよりも短いパスが向いているのは、確かですよね。

「腕の力、手の大きさが、外国人とは違う。そもそも長いパスは、 一点でしかとれない。どうしても山なりになるから、タックルのポイントも、絞りやすい。
カウンター攻撃なら、フワッとして長いパスもいいけれど、仕掛けのアタックでは通用しない。短く早いパスなら、ここでとれます、ここでもとれますと、どこでとるかの選択肢は、 広がる。抜け切れなくても、絶対に(相手陣へ)差し込むことはできる(図表)」

--自分の頭で理論、戦法、練習法を考えられる指導者が少ない。

「よそのよいことを、何でもしたくなる。まねをする。すると、どんどん(することが)増えてくるわけですよ。どのチームにも15もサインプレーがあると。しかし週に3、4回、1日1時間少しの練習で、バックス7人で反復する時間なんて、せいぜい15分や。それが年間何回あるのか。そんなサイン、ミスが出て当然ですよ。これも身の丈を考えて、サインプレーは減らさなくてはいけない」

--おそらく大西ジャパンは、焦点を絞った練習をしていたのでしょう。

「10年間、サインプレーは原則カンペイだけです。それを変化させて応用していく。いくつか増えたとしても、大試合の前には減らしてしまう」

--小さい人間、チームの戦い方を具体的に。

「先ほど述べたように、接点でボールを動かす。外国人のオフロードは、タックルの上に乗っかって、 ボールをいかす。しかし小が大を相手に、それは出来ない。ならどうするか。下に当たって、ボールを動かすほかないでしょう。
体格差があって、ぐちゃっとつぶれてしまうのなら、当たる寸前に、 動かす。そのためにも、肩をつくる。
アタックだけでなく、前へ出るディフェンスにも、必要なんです。
(どうやって肩を?)フロントローは高校3年間で、肩をつくってる。バックスも、スクラムマシンに当たればいい。1か月、2か月、毎日、カタイものに当たることです。成章(高校)にひとりだけ、私の教えたことをホンマにやり通した部員がいた。校内の電柱に、当たりました。体は小さいけれど、壊し屋になりましたよ」

--小さい人間なりに強い体を。

「低い姿勢。瞬間ダッシュ。ここは反復するしかない。トレーナーがいるなら、必ずアジリティーを中心に組み込んでもらう。もちろん、フィットネスも大切です。ある外国人コーチは、現代ラグビーは左右分業制だから、スタミナはそれほどいらない、と話していた。でも、それはオールラウンドな選手が、15人いればこそなんで、ここも横着にマネはできない」

--そして。

「敏捷性、巧緻性しかない。ただしコンタクトを忘れてはならない。芯をずらして低い姿勢で、ボールを動かす。広義ではオフロードなんでしょうが、外国人の方法と混同されてしまうので、言葉は変えたほうがいいかもわからない。
繰り返しですけど、自分たちのできることを完璧にやる。突き詰める。小さいチーム、素材の苦しいチームは、敵陣でプレーしなくてはならない。それなら、どう敵陣へ入るのか。その方法を考え抜く。そして自分たちのラグビーを遂行するための体をつくる。練習でやってないことは、試合でもできない。
だからこそ、練習内容を絞り抜く。
スポーツに、天才はいません。なぜなら、 脳の指令で、体は動くんですから。
経験則なしに、プレーはできない。努力あるのみですよ」

--「小さな人間の強さ」はありますよね。

「ラグビーとは、自分より有利な人間をいかす競技。その意味では、小さい者は、自分より大きな人間を走らせることに長けているはず。もっとも最近は、小さな選手まで自己中心的なプレーで自滅している」

--そして小の側は、考え抜く。

「考えながら、練習では常に100㌫以上の力を出す。そうすれば、試合では余裕を残して80㌫でプレーできる。逆はあかんのや。身の丈に合ったラグビーとは何か。なんでそうするのか。なぜそうなのか。そういう態度が、指導現場に足らないと思いますね」

取材後、花園ラグビー場から京都駅近くまで、愛車の三菱で送ってもらった。いやあ抜け道、裏道、自由自在、なんべん小さな角を曲がったか。「通勤時代に、最短時間を考え抜いたんや。なんで、なぜって、、、」


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この記事から
この記事から「横井」さんの考え方に共鳴できたものです。
何度も何度も読み返し、お借りしたDVDを
繰り返し何度も見ました。
その播いた種が、日本中に伝播中でなによりです。
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プロフィール

Yokoi Akira

Author:Yokoi Akira
横井章(よこいあきら)

ラグビークリエイター
現役時代は左CTB、ジャパン10年で17キャップ
    (当時は、キャップ対象試合が少なかった)

1968年、オールブラックス・ジュニアに勝利
1970年以降5シーズン日本代表の主将を務める
    (いまだに、歴代最長記録)
1973年、英仏遠征、日本ラグビー史上初の海外
     テストマッチ、当時世界最強のウェールズ
     と対戦、写真は、その時の幻のトライ
2000年、現場に戻り、100数チームにアドバイス

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